提言2009「温泉地における食の魅力づくりを考える」

Ⅰ.本提言の趣旨とその背景

行ってみたい「旅行タイプ」として、「温泉(55.0%)」「自然観光(44.4%)」に次いで「グルメ(42.4%)」が第3位となっている((財)日本交通公社「旅行者動向2009」)。また、「旅行先での食事内容について事前に情報収集する」旅行者も約6割あり(同調査、2004年)、食は、旅行中の大きな楽しみの一つとなっている。

その一方で、来訪者の食への満足度は高くはなく、温泉地が食の魅力を来訪者へきちんと提供できていない点が、各地に共通の課題となっている。
本研究会の会員温泉地は、温泉や宿泊施設が高く評価されているため、宿泊目的は「温泉」や「宿泊施設」「温泉街」が多く、調査データとしては「食」への期待は大きいものとはなっていない。その中で、来訪者が温泉地で行った活動として「食事」がやや高い割合となったのは由布院(27.5%、複数回答)であった(本研究会「CS調査2008」)。

しかしながら、各温泉地の観光案内所等では、「おいしいものは何か」「どのお店に行けば食べられるのか」といった問い合せは多く、来訪者の食への関心は高い。温泉地における食の魅力づくりが、来訪者の満足度を高めてリピーター化につながり、そして食を目的とした来訪や滞在時間の延長による消費額の増大も期待できる。

さらには、地元食材の調達や料理人・サービス従業員の雇用など、地域経済への貢献度も大きいことから、温泉地における食の魅力づくりを、持続的な観光まちづくりに向けた重要テーマとしてあらためて検討することにした。

食の魅力づくりは、これまですでに様々な取り組みが行われており、また各温泉地で調達できる食材や料理人などの人材、地元飲食店との連携の可否などの条件により、一様ではない。
本研究会での議論を通じてお互いの取り組みから学び、成果が期待されるものを自らの地域で試行したり研究会として共同のアクションを取ることなどにより、参加温泉地における食の魅力づくりの新たな展開につなげることを目指す。そして、本研究会における議論内容が、全国の温泉地にとってもヒントとなることを期待して、本提言を行う。

Ⅱ.温泉地における食の魅力づくりを進めるにあたって

【基本的な考え方】

◆温泉地全体として食の魅力づくりに取り組む

  • 個性ある料理の魅力で多くの宿泊客を惹き付けている旅館があるように、温泉地としても地域が一体となった取り組みによって来訪者を呼び込み、滞在時間の延長による消費額の増大を誘発するとともに、来訪者の満足度を高めてリピーター化につなげることを目指す。
  • 食の魅力づくりは、食材の調達や料理人・サービス従業員の雇用確保など、地域経済へ大きく貢献する。また、地元向けには、食育や食文化の次世代への継承といった観点からも重要な取り組みであり、幅広い関係者の意識を醸成し、地域全体として取り組むことが重要である。
  • 具体的な取り組み方としては、安心・安全、旬の食材の活用や調理方法・加工方法、サービス提供のスキルアップ、食事場所など提供環境の魅力向上、そして食材生産現場の見学や収穫体験といった、食に関する体験の提供などが考えられる。

◆消費者への効果的な情報発信に取り組む

  • 前項の観点から、食の魅力に関する情報を温泉地が一体となって発信することが重要であり、そのためには今以上に地域情報ポータルサイト上の情報コンテンツと表現(文章表現、画像、映像)を磨き上げることが重要である。
  • 発信する情報は、現在著名な(誘客力のある)食材や名物料理、有名飲食店についてに留まらず、料理人(個人・研究会)や生産風景・製造現場の様子、そして地味であるかもしれないが地域への理解を深めるために、郷土料理や食文化について発信することが考えられる。
  • 料理人による料理教室の開催など、食を作り出す人から直接食の魅力について教わる機会を設けることでも効果的な情報発信が可能である。

【観光業界・まちづくり組織として取り組むこと】

1.「食」をめぐる実態を把握する

  • 旅行先での食に対する旅行者のニーズ(自らの温泉地の食への期待等)や消費者の食全般についての志向、また、受け入れる地域における食の提供に関する実態を把握する。そのうえで、自温泉地での新しい食の楽しみ方・スタイルを提案する(ブランチメニューや喫茶、バーの充実、健康と食をテーマに糖尿病患者向けメニュー開発、海外の富裕層向け 等)。
  • 後者(地域における実態把握)として、食材や料理、食の体験(生産現場見学や収穫等)の具体的な内容、それらの提供主体(生産・調理・サービスの各段階)や提供の場(飲食店、宿泊施設等)の状況、そして地域の食文化などについて把握することが考えられる。

2.「おいしい料理」を提供する

  • 自らの温泉地が自信を持って提供する「食の魅力の基準」をつくる(例:1週間食べても飽きないもの、車で1時間圏内で採れたものを使う、地元食材を○種類以上使う 等)。
  • 旬の時期に地元で獲れた海産物・生産された野菜を使い、季節にあった加工法(干物に加工等)を施すことで、おいしい料理を提供する。料理人が季節にあった食材を選択できるように、旬の食材とその調理法等に関する情報を整理して周知する必要がある。
  • 食材に個性が乏しい地域では、料理人の技術や食事提供の場・演出方法を工夫することで独自性を打ち出し、食材に頼らずに「トータルの体験としての食の魅力」を提供する。
  • 料理人の技術向上のため、料理研究会等の開催を検討する。また、全国各地の評判の旅館・飲食店を体験して、消費者ニーズとそれへの対応法について学ぶことも重要である。

3.地元の食材を効果的に活用する

  • 味の良さや価格の安さ、持続可能性の観点から旬や地元産、禁漁期を守り、食材・料理を期間限定・数量限定で提供することも重要である。
  • 地元農家と連携した有機栽培などの安全な食材づくりやIターンしてきた農家への支援としての食材購入、食文化圏が同じ地域と郷土料理の魅力再発見など、地元に密着して取り組む。
  • 温泉や水の良さも重視であり、料理や出し汁への活用や染め楊枝や塩づくりといった、かつて作られていた温泉場の特産品の再考も考えられる。
  • 新たな食材として、エゾジカやイノシシなど鳥獣被害の原因となっている食材の活用も検討する。その際、洋風の調理法やB級グルメとするなど、「食べたくなる」工夫を施すことが必要である。

4.地元の生産者・飲食店・旅館など関係者が連携する

  • 連泊の宿泊客や早朝の登山客などを対象に、旅館の食事の一部などについて、温泉街の飲食店で日常的な食事と弁当手配ができるように、メニュー開発に取り組む。
  • 地域の食を体験できる食のイベントや、宿泊の必然性をもたらす朝市を定期的に開催する。これによって、観光関係者と地元生産者との連携も深まることが期待される。
  • 形の悪い農産物や廃棄していた魚など、生産者から使ってほしい食材の要望を聞くとともに、飲食店や旅館から使いたい食材の生産を依頼するなど、地域内で新たな食材発掘に向けて連携する。そうした連携によって生まれた農産物等を「地元産」として打ち出し、地産地消する。
  • プロの料理人が技術向上のために料理研究会を重ねるとともに、観光関係者自らが、地元や地域外で食を楽しむ体験を積むことが重要である。
  • 地元の子ども達や若者のアイデアを募集するなど、地域をあげて新たな食の魅力づくりに取り組むことで、地元食への誇りが醸成されることが期待できる。
  • こうした地域の取り組みを、きちんとした文章・映像表現によって、ポータルサイトとなるホームページで発信するとともに、関係組織・団体のホームページとリンクさせる。

5.地域外の生産地・調理人などと連携する

  • 誘致力のある食材(例:カニ)を広域から調達して、地元料理人の技術力でもって個性的な料理として提供する。
  • 各地の評価の高い料理人との交流・協働を通じて、食の魅力づくりとともに地元料理人の技術向上へのモチベーションを高める。
  • 料理を引き立てる器づくりや店舗空間といった料理の周辺領域について、アーティストや建築家と協働する。
  • マーケットのニーズを捉えるために、消費地の商店街(例:有馬にとっての岡本商店街)などと連携した宿泊商品をつくる。この商品の販売を通じて消費者へ情報を効果的に発信する。

【研究会として取り組むアクションについて~議論】

本研究会の会員温泉地が、各地に於いて「地域一体となった食の魅力づくり」を推進するにあたって、「温泉まちづくり研究会」の名の下に共同アクションを取ることも、一つの手法として考えられると思われます。

アクション案

◆「消費者への効果的な情報発信」の一環として

  • 「食の魅力づくりに積極的に取り組む温泉地」として、5温泉地の取り組みを紹介するホームページを立ち上げ、各温泉地とリンクを貼ることで情報発信・誘客につなげる(「温泉まちづくり研究会」のホームページ内に開設するイメージ)。

◆宿泊と滞在時間の延長を目指す「朝食の魅力づくり」

  • 各温泉地で、特に朝食とその前後の時間帯の魅力づくりに取り組むことで、「宿泊してゆっくり過ごして下さい。連泊して下さい」というメッセージを発信する。
  • 具体的には、食事前の散策、朝食の内容、食事場所、時間帯の融通性、旅館以外の飲食店でのブランチなど、個々の旅館と地元飲食店と連携した取り組みを、上記ホームページなどで紹介する。

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